石元から電話があった。
「三和さん。おねがいがあるんだけど」
石元は中学校の時の同級生だ。ほっそりした長身で色が黒い男だった。
中三の時に、私たちのクラスに転校してきた。
離島からの転校生で田舎ものと思っていたが、
服装といい、しゃべり方といいシティーボーイだ。
私と石元は違う高校に進んだ。
石元は続けていった。
「俺ら、今度コンサートをやるんだけど、キーボードをやってくれないかな。
メンバーは俺とオサムとペッツなんだ」
他のふたりも中学の同級生で石元と同じ高校だ。
「春のコンサートではは林さんがやってくれたんだけど、今度は都合が悪くって、
新しいメンバーを探してるんだけど、三和さんピアノずっと習っていたよね。
中学校のお別れ会の時弾いてくれたの思い出したんだ」
私は黒い電話を床におろし玄関に腰掛けた。
「何をやっているの。銀蠅、RC」
「銀蠅やRCって誰でもやってるだろう。俺達は違うよ」
銀蠅とは横浜銀蠅、RCはRCサクセション。有名なロックバンド。
「じゃ何やってるの」
「アリス」
「アリスって、チャンピオンとか冬の稲妻やってるグループ?フォークやってるの?」
「フォークじゃないよ。ニューミュージックだよ。最近のアリスってかっこいいんだ」
「へー、そう」
私は素っ気なく言った。
コレは私の口癖だ。時々この言葉、言い方は冷たく感じるらしい。前に石元がいったことがある。
今日はそんなことは言わない。石元にとってはもう慣れっこなんだろう。
「今から、今度やる歌のテープもってってやるよ。上林公園まで出てこられるかい」
石元は6時にいくからと言って、さっさと電話を切ってしまった。
そのとき、ボーンとうちの柱時計が1回鳴った。
まだ4時半だ。外ではジージーと蝉がうるさかった蝉時雨が一瞬止まった。
うるさくいつもなっている音は聞こえないが、
音がしなくなった瞬間時止まったような気になるときがある。
時がまだまだ暑い夏が続くことを知らない私を置き去りにするように。
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